フォークランド紛争から25年

 「フォークランド紛争」と言っても、多くの人は忘れているか、知らないだろう。南大西洋アルゼンチン沖にある群島で、長年英国が支配していたが25年前にアルゼンチン軍が上陸・占領した結果起きた争奪戦で、圧倒的な軍事力を持つ英国が奪回した事件である。先日25周年を迎えて両国のメディアが特集を組んだということである。

 アルゼンチン軍の占領を受けて急遽英本国から艦船が派遣される状況がテレビで中継され、その中で水兵の1人が「怖い」と震えているところが印象に残っている。それまでの報道にそのような生の声があっただろうか。このような場面を見なかったら、いくつもある局地紛争の一つとして、記憶に残ることは無かっただろう。戦争ものの小説、映画、テレビドラマなどでは主人公が「愛する家族のため」とか「国のため」という勇敢なせりふが吐かれることが中心で、まれに「怖い」と言う場面はあっても、現実感のない、あるいは先の勇猛さを際だたせるためのせりふでしかなかったと感じた。従って、生身の水兵が発した実感に改めて考えさせられたことであった。

 その後いろいろな事情から第二次世界大戦中の事柄について、かの兵士の勇猛果敢な振る舞いの影に、恐怖心を押さえつけるためにわが国を含め、各国とも覚醒剤が広く使われており、現在でも変わりがないこと、その後の戦いにおける戦場からの帰還兵に起きるPTSDなどが明らかにされてきた。このような大きな問題があるにも関わらず、人々は戦争の現実を見ようとしていない。

 ここ数年の戦争映画について、米国の特派員が「日本の観客は映画の情緒面に感激し、制作者の意図するところが伝わっていない印象を受けた」という記事を配信していたが、わが国メディアの取り上げ方を見ても、特派員の指摘はもっともだと思われる。